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ベンチプレスが半年ほど止まっている。調べたら「まずクレアチン」と誰もが書いている。値段を見たら2,000円台で、プロテインより安い。カゴに入れた。
そこで念のため検索した。「クレアチン ハゲる」。
手が止まったと思います。しかも父親や祖父の髪が心許ない自覚があると、この噂は他人事になりません。2,000円をケチる気はないけれど、髪と引き換えなら話は別です。ついでに「クレアチン 腎臓」も出てきて、余計に踏み切れなくなる。
結論から言うと、この二つの噂は別々のものに見えて、出どころは同じ一つの誤読です。そして2025年に、その誤読を正面から検証した試験がようやく出ました。この記事では、噂の元になった研究を一本ずつたどって、何が測られて何が測られなかったのかを確かめていきます。
はじめにお断りしておきます。
筆者は医療従事者ではないため、診断や治療に関する助言は行いません。この記事は体験談ではなく、公開されている研究や学会の見解を調べた上での解説です。持病がある方、薬を飲んでいる方は、サプリメントを始める前に必ずかかりつけの医師にご相談ください。
結論:二つの噂は「同じ誤読」から生まれている
先に全体像を出しておきます。
| 噂 | 元になったもの | 実際に測られたもの |
|---|---|---|
| クレアチンでハゲる | 2009年の研究1本 | 血中のDHT(髪は未測定) |
| クレアチンは腎臓に悪い | 健康診断の数値の上昇 | 血中のクレアチニン(腎機能そのものではない) |
どちらも「数値が動いた」という事実はあります。そして、どちらも「その数値が動いたら体が壊れている」という前提が、勝手に足されている。
これは車のメーターに例えると分かりやすい。燃料計の針が動いたからといって、エンジンが壊れたわけではありません。針が動くのは、そこにガソリンを入れたからです。クレアチンをめぐる二大不安は、どちらも「針が動いた=エンジンが壊れた」と読み替えたところから生まれています。
順番に見ていきます。
「ハゲる」の出どころは、たった1本の研究
元ネタは2009年、ラグビー選手20人の研究
「クレアチンでハゲる」の根拠として世界中で引用されているのは、2009年に発表された研究です。大学生年代のラグビー選手20人にクレアチンを21日間飲んでもらい、血中のホルモンを測ったもの。
結果、DHT(ジヒドロテストステロン)という男性ホルモンが、最初の高用量期に約56%、その後の維持期にも約40%高い状態でした。
DHTは、いわゆるAGA(男性型脱毛症)に関わるホルモンとして知られています。だから「クレアチン→DHT上昇→薄毛」という筋書きが立った。ここまでは分かります。
この研究が測らなかったもの
ただ、この研究には決定的な欠けがあります。
髪を一度も測っていないのです。
毛量も、毛の太さも、抜け毛の本数も、この研究では調べていません。測ったのは血液中のホルモン濃度だけ。つまり「薄毛になった」という観察は、この研究のどこにも存在しません。あるのは「DHTという数値が上がった」という事実だけです。
そしてもう一つ。この結果は、その後16年間、一度も再現されていません。追試で同じ結果が出たという報告がないまま、この1本だけが引用され続けてきました。
実際、テストステロンとDHTへの影響を調べた研究12本・のべ276人分をまとめて解析した結果では、総テストステロン・遊離テストステロン・DHTのいずれにも統計的に意味のある変化は見られていません。20人の1本だけが例外的な結果だった、という見方が自然です。
DHTが上がる=薄毛になる、ではない
仮にDHTが少し上がったとしても、そこから薄毛までは距離があります。
AGAが進むかどうかを分けているのは、毛根の受容体がDHTにどれだけ反応しやすいかという遺伝的な体質です。同じDHT濃度でも、反応しやすい人は進行するし、反応しない人はしません。だから兄弟でも差が出る。
血中の濃度が数値として動いたことと、毛根で何が起きるかは、別の話です。ここを混ぜたまま16年が過ぎた、というのが実情でした。
16年後、ついに髪そのものを測った試験が出た
2025年、この問いを直接調べた試験がようやく発表されました(Lakら、国際スポーツ栄養学会誌)。
- 対象:筋トレ習慣のある18〜40歳の男性45人(38人が完了)
- 方法:クレアチン5g/日 vs プラセボ(マルトデキストリン)を12週間、どちらか分からない状態で
- 測ったもの:総テストステロン・遊離テストステロン・DHTに加えて、毛髪密度・毛包の数・毛髪の太さの合計
結果は、ホルモンにも毛髪にも、飲んだグループとプラセボのグループで差はありませんでした。
16年ぶりに髪そのものを測った試験で、差が出なかった。国際スポーツ栄養学会も、クレアチンが脱毛を促進するという直接的な証拠は現時点で存在しない、という立場を示しています。
それでも家系に薄毛がある人へ、正直なところ
ここで「だから絶対にハゲません」と書いてしまうと、この記事も噂と同じ穴に落ちます。
12週間・38人の試験は、これまでで最も直接的な証拠ですが、それでも「AGAの素因が強い人が何年も飲み続けたらどうか」を答えたものではありません。期間も人数も、そこまでは届いていない。
なので、素因の自覚がある人に向けた現実的な提案はこうです。
- ☐ 始める前に、頭頂部と生え際を同じ角度・同じ明るさで写真に撮っておく
- ☐ 3ヶ月後にもう一度、同じ条件で撮る
- ☐ 気になる変化があれば、その写真を持って皮膚科・AGAクリニックに相談する
不安の正体は「変化に気づけないこと」であって、クレアチンそのものではないことも多い。記録さえ残しておけば、後から自分で判断できます。
「腎臓に悪い」の出どころは、一字違いの取り違え
クレアチンと、クレアチニン
こちらの噂は、もっと単純な話です。
クレアチンは体の中で使われたあと、クレアチニンという物質になって尿から捨てられます。名前が一字しか違いませんが、別物です。
そして健康診断で腎臓の状態を見るとき、代表的な指標として使われているのが、この血中のクレアチニン値(およびそこから計算するeGFR)。
もう答えが見えたと思います。クレアチンを飲めば、その代謝でできるクレアチニンも増える。だから血液検査の数値が上がる。腎臓が壊れたからではなく、材料を足したからです。
冒頭の燃料計の話と、同じ構造です。
数値が動くことと、腎臓が壊れることは別
これは筋トレをしている人全般に言えることでもあります。クレアチニンは筋肉から出てくるので、筋肉量が多いほど数値は高く出ます。血中クレアチニンだけを腎機能の指標にすると、クレアチンを飲んでいるかどうかに関係なく、アスリートのほとんどが「腎機能に問題あり」に見えてしまう、と指摘されています。
安全性そのものについては、国際スポーツ栄養学会が見解をまとめています。健康な人が一般的な量(1日25g未満)を摂る範囲で腎機能に障害が出るという証拠はなく、短期(5日)から長期(10ヶ月〜5年)までの研究で腎機能への悪影響は確認されていない、という内容です。
健診の前と、受診のときにやること
ただし、実生活で困るのは「数値が上がって医師に何か言われる」場面です。ここは手が打てます。
- ☐ 健康診断や血液検査を受けるとき、クレアチンを飲んでいることを医師に伝える
- ☐ 検査結果に「クレアチニン高値」と付いたら、飲んでいる旨を伝えた上で再評価してもらう
- ☐ 気になる場合は、検査の数日前から中止しておく(数値が戻る余地ができます)
伝えるだけで、無用な精密検査や不安を避けられます。逆に黙っていると、医師は「筋肉量の多い人の腎機能低下」として扱わざるを得ません。
⚠ ここだけは当てはまらない人がいます
以上は「腎臓が健康な人」の話です。腎臓の病気を指摘されたことがある方、糖尿病や高血圧の治療中の方、腎臓に影響しうる薬を服用中の方は、この記事の内容を自己判断の根拠にしないでください。必ず主治医に確認してから判断してください。
また、むくみ・尿の量や色の明らかな変化・強い倦怠感などがある場合は、サプリメントの検討より先に医療機関を受診してください。
あなたが本当に気にしているのは、どっち?
ここまでの話を、自分に当てはめて整理してみてください。
- ☐ 家系に薄毛がいて、進行を早めたくない → 写真記録を取ってから始めるのが現実的
- ☐ 健診でクレアチニンやeGFRを指摘されたことがある → 医師に相談してから
- ☐ 腎臓や肝臓の持病がある → 自己判断で始めない
- ☐ 特に持病も家系の不安もないが、なんとなく怖い → 情報の出どころが分かった今、判断材料は揃っています
- ☐ お腹が弱いのが心配 → 飲み方でほぼ回避できます(次章)
不安を最小にして始める、3つのステップ
噂の中身が分かったところで、実際に始めるときに「余計な不安を増やさない」やり方をまとめます。お金のかからないものから順に並べています。
ステップ①:種類は「モノハイドレート」を選ぶ。それ以外は要らない
クレアチンには色々な種類が売られています。塩酸塩、バッファード、エステル型など、いかにも高性能そうな名前が並びます。
ただ、研究の蓄積が圧倒的に多く、安全性と効果の両面で検証されてきたのはクレアチンモノハイドレートです。ここまで紹介してきた研究も、すべてモノハイドレートのもの。
つまり、他の種類を選ぶと「安全性のデータが薄い方」を選ぶことになります。不安を減らしたいなら、選択肢は一つです。しかも一番安い。
ステップ②:「ローディング」をしない。一度にまとめて飲まない
クレアチンの解説でよく出てくる「ローディング」は、最初の数日だけ1日20gほどを飲んで一気に体内濃度を上げるやり方です。
これは必須ではありません。1日3〜5gを続けるだけでも、時間はかかりますが同じ状態に到達します。
そしてここが実用的な話なのですが、クレアチンで起きる副作用として現実的に一番多いのは、髪でも腎臓でもなくお腹がゆるくなることです。これは溶け残ったクレアチンが腸に水を引き込むために起きるもので、一度に大量に飲むほど起きやすく、量を分けると起きにくいことが分かっています。
つまり、
- ローディングをしない
- 1日5gを、飲むなら分けて飲む
- 十分な水と一緒に飲む
これだけで、体感する不快感のほとんどは避けられます。ここまで全部タダです。
ステップ③:純度と原料が明記された製品を選ぶ
最後が製品選びです。クレアチンモノハイドレートは中身の規格が決まっている分、差が出るのは「純度が明記されているか」と「誰が品質を保証しているか」になります。
ここが曖昧な製品は、価格が数百円安くても選ぶ理由がありません。せっかく安全性を確認して始めるのに、中身が分からないものを飲んでは意味がないからです。
純度を明記していて、日本語のサポートがあるブランド
クレアチンモノハイドレートの純度を99.9%と明記していて、日本国内から発送される選択肢としてはNaturecanがあります。無味無臭のパウダーなので、プロテインや水に混ぜても味が変わりません。
「海外ブランドは表示が英語で中身が分からない」「届くまでが長い」といった不安が理由で踏み切れなかった人にとっては、日本語表示と国内発送という点で判断しやすい選択肢だと思います。
⚠ 買う前に、ここだけは必ず確認してください
商品名に「モノハイドレート」または「Monohydrate」と入っているかを見てください。同じブランドが複数タイプのクレアチンを扱っていることがあり、うっかり別タイプを買うと、この記事で紹介した研究の前提から外れてしまいます。
また、内容量(250g / 500gなど)と1回あたりの量(3〜5g)を見比べて、何日分になるかも確認しておくと、買い直しの手間が減ります。
それでも体の不調が続くなら、原因は別にあるかもしれません
飲み方を整えても、お腹の張りや下痢が続く場合があります。
そのときに考えたいのは、「原因はクレアチンではないかもしれない」という可能性です。クレアチンを一度やめてみて、それでも不調が続くなら、原因は別のところにあります。
よくあるのが、一緒に飲んでいるプロテインの方に原因があるケースです。安価なホエイプロテイン(WPC)には乳糖が残っていて、これがお腹の張りや下痢を起こすことがあります。クレアチンとプロテインを同時期に始めた人は、この切り分けができていないことが多い。
詳しくはこちらにまとめています。
それでも原因が分からず、腸の不調が長く続いているなら、自分の腸内環境そのものを一度調べてしまうのも手です。何を変えても改善しない状態を、原因不明のまま続けるのが一番きついので。
※これらの検査は医療行為ではなく、診断を目的としたものではありません。あくまで自分の体質を知るための参考情報としてご利用ください。強い痛みや血便など、明らかな異常がある場合は検査キットではなく医療機関を受診してください。
よくある質問
Q. 結局、クレアチンを飲むとハゲますか?
A. 現時点で、クレアチンが脱毛を起こすことを示した研究はありません。噂の元になった2009年の研究は髪を測っておらず、その後再現もされていません。2025年に髪そのものを測った試験でも、プラセボとの差は出ませんでした。ただし「AGAの素因が強い人が何年も飲み続けた場合」を検証したデータはまだないため、心配な方は写真で記録を残しながら始めることをおすすめします。
Q. 健康診断の前は、飲むのをやめたほうがいいですか?
A. 数値を正確に見たいなら、検査の数日前から中止しておくと余計な誤解を避けられます。ただし一番大事なのは、飲んでいることを医師に伝えることです。伝えれば、医師はその前提で結果を読んでくれます。
Q. 女性が飲んでも大丈夫ですか?
A. クレアチンは男性専用のサプリメントではなく、女性を対象にした研究も行われています。ただし妊娠中・授乳中の方は自己判断せず、医師に相談してください。
Q. 毎日飲まないと意味がないですか?
A. クレアチンは体内に蓄えて効果を出すタイプなので、飲んだ日だけ効くものではありません。トレーニングをしない日も含めて毎日続けるのが基本です。逆に言えば、飲む時間帯を厳密に守る必要はありません。
Q. 太りますか?体重が増えると聞きました。
A. 飲み始めに1〜2kg増えることがありますが、これは筋肉内に水分が引き込まれるためで、脂肪が増えたわけではありません。体重計の数字と体脂肪は別物なので、増えた分を脂肪と勘違いしないでください。この点はプロテインで太った・脂肪が増えた原因は?でも詳しく扱っています。
まとめ
- 「クレアチンでハゲる」の元ネタは2009年の研究1本で、その研究は髪を一度も測っていない
- その結果は16年間再現されず、2025年に髪そのものを測った試験ではプラセボとの差が出なかった
- 「腎臓に悪い」は、クレアチンの代謝産物であるクレアチニンが健診の指標だから数値が上がるという話。腎臓が壊れているわけではない
- どちらも「数値が動いた」を「体が壊れた」と読み替えたことから生まれた噂
- 始めるなら、モノハイドレートを選ぶ/ローディングしない/分けて飲むの3点で、不快感のほとんどは避けられる
- 腎臓の持病がある方、健診で指摘を受けたことがある方は、必ず医師に相談してから
噂の出どころが分かってしまえば、あとは自分の体質と相談するだけです。判断材料は、もう手元にあります。

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